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東京高等裁判所 平成7年(行ケ)270号 判決 1996年2月28日

福岡県久留米市太郎原町1328番地の1

原告

株式会社坂田種苗本店

代表者代表取締役

坂田隆信

訴訟代理人弁護士

赤井文彌

船崎隆夫

清水保彦

小林茂和

舟久保賢一

宮崎万壽夫

渡邊洋

岡崎秀也

相澤重一

小菅稔

訴訟代理人弁理士

田中正治

東京都狛江市駒井町3丁目14番1号

被告

森山光夫

埼玉県大宮市土手町1丁目2番地

被告

株式会社ナチュラルメートの会

代表者代表取締役

木村富男

両名訴訟代理人弁理士

光藤覚

主文

特許庁が、平成5年審判第4790号事件について、平成7年10月2日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告らの負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

主文と同旨。

2  被告ら

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

被告らは、昭和61年7月17日に登録出願され、平成2年8月30日に設定登録された、「CALGEN」の文字を横書きしてなり、第32類「加工食料品、その他本類に属する商品」(平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令の区分による。)を指定商品とする登録第2258832号商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である。

原告は、平成5年3月12日、被告らを被請求人として、本件商標につき登録無効の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成5年審判第4790号事件として審理したうえ、平成7年10月2日、「本件審判の請求を却下する。審判費用は、請求人の負担とする。」との審決をなし、その謄本は、同年10月16日、原告に送達された。

2  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本件審判請求は、審判請求の利益を有しない者によってなされた不適法なものであると判断した。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、登録第1778253号商標(第1引用商標)及び登録第1710897号商標(第2引用商標)の認定、請求人(原告)が両引用商標の商標権者ではないことは認める。

審決は、請求人(原告)が本件審判請求につき法律上の利益を有しないと判断したが、誤りである。

無効審判の請求において、請求人の商標登録出願について、無効審判の対象となる登録商標が引用されて異議申立を受けている場合、当該無効審判の請求について、請求人は利害関係を有すると解されるところ、原告は、原告の商標登録出願(商願昭63-87261号。以下「原告出願」といい、原告出願に係る商標を「原告出願商標」という。)に対し、本件商標を引用した登録異議の申立てを受けているから、本件審判を請求できる法律上の利害関係を有することは明らかである。

第4  被告らの反論の要点

審決の認定判断は正当であって、原告主張の取消事由は理由がない。

第5  証拠関係

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立についてはいずれも当事者間に争いはない。

第6  当裁判所の判断

1  商標登録出願に係る商標が、当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標と同一又はこれに類似し、指定商品も同一又は類似するものとして、当該商標登録出願が拒絶され又は拒絶されるおそれがある場合、その商標登録出願人は、上記他人の登録商標につき、商標登録の無効審判の請求をする法律上の利益があることは、明らかである。

本件につき、平成7年6月14日付け「登録異議の申立てについての決定謄本」(乙第1号証)によれば、前示原告出願に対し、被告株式会社ナチュラルメートの会が本件商標を引用して登録異議の申立てをなしたところ、特許庁は、原告出願商標と本件商標とは称呼を同じくする類似のものであり、指定商品も類似するものであるから、原告出願商標は商標法4条1項11号(平成3年法律第65号による改正前のもの。以下同じ。)に該当するとして、上記登録異議の申立ては理由があるものとの決定をしたことが認められる。

そして、仮に、原告出願についての査定又は審決のときまでに、本件商標の商標登録を無効とする旨の審決が確定した場合には、本件商標が前示規定にいう「他人の登録商標」として存在していることを理由として、原告出願が拒絶されることはなくなるから、原告が、原告出願商標の不登録事由を取り除くべく、本件商標の商標登録を無効とする審判を請求することは、正当な権利の行使であり、これにつき法律上の利益を有することは、明らかである。

審決は、「請求人の当該出願商標は本件商標の登録出願の後の出願に係るものであり、本件商標の存在によってその登録が拒否されたとしても必ずしも不当なものといえないことは明らかであるから、登録異議の申立てに対抗する手段として徒に無効審判を請求することは許されず」(審決書7頁20行~8頁5行)と判示するが、これは、仮に本件商標が本来商標登録の要件を欠きながら登録されたなど登録無効の事由があるものであるとすれば、本件商標の存在により、原告が原告出願商標について有する出願人としての法的利益を害されていることを忘れた立論であり、その誤りは明白である。

2  審決は、さらに、「第1及び第2の両引用商標の商標権は、いずれも請求人の有する権益とは何の関係もない他人の所有に係るものであり、請求人が当該審判の請求について法律上正当な利益を有するものとはいえない」(審決書8頁9~13行)と判示する。

しかしながら、商標登録が同法4条1項11号の規定に違反してされたときは、同法46条1項1号に規定する商標登録の無効事由に該当するのであって、この場合、同法4条1項11号にいう「他人の登録商標」の商標権が無効審判の請求人に帰属していることは、何ら法律上の要件でない。本件審判請求において、請求人(原告)が本件商標の無効の理由として引用する第1引用商標及び第2引用商標の商標権が原告に帰属しているものでないことは、原告(請求人)が本件審判請求について法律上正当な利益を有することを否定する理由には、そもそも、なりえない。

3  以上のとおり、審決は、およそ理由になりえない理由でもって、本件審判請求につき、原告(請求人)の審判請求の利益を否定したものであり、誤りというほかはなく、違法として取消しを免れない。

よって、原告の本訴請求を正当として認容することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、93条1項本文を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 押切瞳 裁判官 芝田俊文)

平成5年審判第4790号

審決

福岡県久留米市太郎原町1328-1

請求人 株式会社 坂田種苗本店

東京都千代田区永田町2丁目4番7号 秀和永田町レジデンス502号 田中正治国際特許事務所

代理人弁理士 田中正治

東京都狛江市駒井町3丁目14番1号

被請求人 森山光夫

埼玉県大宮市土手町1-2

被請求人 株式会社ナチュラルメートの会

東京都豊島区東池袋2丁目3番7号 OPM602号

代理人弁理士 光藤覚

東京都豊島区東池袋2丁目3番7号 OPM602号

代理人弁理士 光藤覚

上記当事者間の登録第2258832号商標の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求を却下する。

審判費用は、請求人の負担とする。

理由

1. 本件登録第2258832号商標(以下「本件商標」という。)は、「CALGEN」の文字を書してなり、昭和61年7月17日に登録出願、第32類「加工食料品、その他本類に属する商品」を指定商品として、平成2年8月30日に設定の登録がなされたものである。

2. 請求人が本件商標の登録無効の理由に引用する登録第1778253号商標(以下「第1引用商標」という。)は、「コルゲン」の文字を書してなり、昭和57年7月19日に登録出願、第32類「食肉、卵、食用水産物、野菜、果実、加工食料品」を指定商品として、同60年6月25日に設定の登録がなされたものであるが、その後、平成2年審判第23535号において平成3年9月2日付けでなされた「指定商品中、野菜、果実についての登録は取り消す」旨の審決が確定し、その確定審決の登録が平成5年4月19日になされ、更に、同7年6月25日商標権存続期間の満了により、本商標権の抹消の登録が同年8月16日になされているものである。

同じく、請求人が引用する登録第1710897号商標(以下「第2引用商標」という。)は、「肝源」の文字を書してなり、昭和53年3月29日に登録出願、第32類「加工食料品」を指定商品として、同59年8月28日に設定の登録、その後、平成7年7月28日に商標権存続期間の更新登録がなされているものである。

なお、上記両引用商標の商標権は、いずれも請求人とは異なる他人の所有に係るものである。

3. 請求人は、「本件商標の登録を無効とする。」との審決を求め、その理由及び被請求人の答弁に対する弁駁を以下のように述べ、証拠方法として、甲第1号証乃至同第8号証を提出した。

(1)請求人は、「カルゲン」の文字を書した商標を第32類「野菜、果実」を指定商品として出願(商願昭63-87261号)したところ、被請求人の一人、株式会社ナチュラルメートの会から、本件商標を引用した登録異議申立てを受けたので、本件無効審判の請求に利害関係を有するものである。

(2)本件商標は、第1引用商標とは称呼上類似し、指定商品を同一(ただし、「野菜及び果実」を除く)にしており、また、第2引用商標とも称呼上類似であり、指定商品を同一にしていることから、商標法第4条第1項第11号に該当する。

(3)よって、本件商標は、商標法第46条第1項第1号の規定により、その登録を無効にすべきものである。

(4)被請求人は請求人が本件審判請求について利害関係を有しないと追加主張しているが、本件審判請求は、被請求人から請求人の商標登録願(商願昭63-87261号商標)に対し本件商標を引用した異議申立てを受けたことによるもので、本件審判請求の結果が、異議申立ての当否、従って、上記商標登録願に法的影響を及ぼし得る、という関係にあるから、本件審判請求に第3者の商標権を引用しているか否かに係わりなく、請求人が本件審判請求について法律上の利益を有することは明らかである。

4. 被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由及び請求人の弁駁に対する答弁を以下のように述べ、証拠方法として乙第1号証乃至同第6号証を提出した。

(1)第1引用商標は「コルゲン」であり、本件商標は「カルゲン」と自然に称呼されるものであるから、「コルゲン」と「カルゲン」を一連に称呼した場合、両者はその語韻、語調を著しく相違し、聴者をして出所の混同、誤認を生ぜしめることはあり得ないものである。

第2引用商標「肝源」が「カンゲン」と称呼されるとしても、本件商標から称呼される「カル」は極めて強く発音されるので、その語調を著しく相違して聴者をして出所の混同誤認を生ぜしめることはあり得ないものである。

(2)叙上の通り、本件商標は、請求人が無効原因として主張する商標法第4条第1項第11号に該当するものでないこと明白である。

(3)請求人は本件審判請求につきその利害関係を有しないものである、との主張を追加する。

被請求人は、請求人出願に係る商願昭63-87261号商標「カルゲン」に対し、本件商標を引用して異議申立てをしている事実は認めるも、本件商標に無効原因があるかどうかは異議申立て理由の当否とは関係がないから、被請求人による異議申立ての事実を以って無効審判を請求する利益とは認めることは出来ない。

又、請求人は、無効原因として第3者の商標権を引用して商標法第4条第1項第11号に該当すると主張するも、いずれも本件審判請求の利害関係と全く関係ないものである。

5. よって、本件審判請求に関し、当事者間において利害関係の有無につき争いがあるので、まずこの点について判断する。

商標登録の無効審判を請求し得る者は、当該審判の請求について法律上正当な利益を有することを必要とされているところ、当該商標登録を商標法第4条第1項第11号に該当することを理由とした無効審判の請求において請求人がその審判請求の利益を有する者というためには、請求人において、無効とすべき商標登録の登録出願前になした登録出願によって有する自己の権益が具体的、かつ、不当に害され、若しくは害されるおそれのあることを明らかにした場合に限られるものと解するのが相当である。

そこで、本件審判請求についてみるに、請求人は、被請求人から請求人の商標登録願(商願昭63-87261号商標)に対し本件商標を引用した登録異議の申立てを受けたことをもって本件審判請求の利害関係を有することの根拠とし、本件審判請求に第3者の商標権を引用しているか否かに係わりなく本件審判請求について法律上の利益を有する、と主張しているが、請求人の当該出願商標は本件商標の登録出願の後の出願に係るものであり、本件商標の存在によってその登録が拒否されたとしても必ずしも不当なものといえないことは明らかであるから、登録異議の申立てに対抗する手段として徒に無効審判を請求することは許されず、上記理由を根拠として請求人が本件審判請求の法律上の利益を有するものと認めることは到底できない。

また、請求人が本件商標の無効の理由に引用する第1及び第2の両引用商標の商標権は、いずれも請求人の有する権益とは何の関係もない他人の所有に係るものであり、請求人が当該審判の請求について法律上正当な利益を有するものとはいえないから、他人の商標権のみを引用して本件商標の登録無効の審判を請求している点においても、請求人が本件審判請求の利害関係を有するものと認めることはできない。

そして、請求人は、他に同人が本件審判を請求する利益を有することについては、何も主張、立証するところがない。

したがって、本件審判の請求は、請求の利益を有しない者によってなされた不適法なものといわざるを得ないから、本案の審理に入り判断するまでもなく、商標法第56条において準用する特許法第135条の規定により、これを却下すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

平成7年10月2日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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